UXデザインを利用した行動設計

Mikihiro Fujii
10 min readJun 8, 2016

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行動を設計するなら予期的UXにフォーカスしよう」までで、予期的UXに注目する理由を書いてきましたが、この記事では、あらためて背景を整理した上で実際のデザイン手法を共有します。

1. 事業会社で「デザイン」に求められること

サービス事業を自社運営しているネット系の会社(以下”事業会社”)では、 存続可能な価値提供事業を成立させるために「デザイン」します。

この記事では、

  • KPI:デザインのターゲットなる行動を指標化したもの
  • KGI:事業の成果指標

としますが、

事業会社での「デザイン」は、事業計画に合わせて設計や成果物(プロダクト/サービス)をアウトプットし、ユーザーの行動(KPI)を生むことで事業指標(KGI)の達成と価値提供(UX)を実現する行為だという意味です。

この内、価値提供のためのデザイン手法がUXデザインです。そして、この記事は、そのUXデザインをユーザーの行動の設計に利用することで存続可能性につなげることを提案するものです。

ユーザーの行動を生んで、事業指標と価値提供を持続的に達成していく

(デザイナーがその領域すべてを担当しているチームは多くなく、実際には、チーム内で役割を分担して「デザイン」を進める必要があります。)

2. 価値を生むためのデザインと事業会社での課題

価値に限らず、体験を生むためのデザインの手法はUXデザインとして学術的にも研究され、実際に現場で用いられてもいます。

これまでの記事ではUXデザインの考え方を元に書いてきましたが、厳密な意味でのUXデザインだけでは事業会社での「デザイン」はできないと感じたことが、この記事を書いたモチベーションになっています。

UXデザインの普及は価値創出という意味では大きな前進でした。
ですが、本来UXデザインは体験を生むことをゴールとするものです。

事業会社で、新サービスの立ち上げや、競合との差別化を求められたデザイナー達が、何をつくるべきかという問いに答えるためにUXデザインというものを求めたわけですが、UXデザインによって事業成果が出たという事例は、定量化されていないものや成功後のあと付け的なものを除くとほぼありません。

「UXデザイン」や「デザイン」の有用性が事業側から疑問視され、単なる要件定義の1手法になったり、バズワードとして消費されたり、人事的ガス抜き要素になるというのは、既に起こっていることでもあります。

こういった現状から出てきた僕の最大の課題意識が、

価値提供事業の創出を目的としてUXデザインを取り入れる過程でデザイナーの目的が価値体験になってしまった。また、そのことによりUXデザインが消費されてしまうリスクに晒されている。(「デザイン」もそれに続いている。)

というものです。

(”健康”のために食べ物に気をつけ始めたけどいつのまにか”美味しいものだけ”を追求していた。みたいな感じですね。)

そこで、UXデザインが特定の体験を生み出すことができるのであれば、特定の行動を生み出し、存続可能な価値提供事業をつくることに利用できるのではないかというのが僕の仮説です。

行動を生むためのデザイン

では、どのようにすれば、行動を生むためにUXデザインを利用できるでしょうか。

UXデザインは体験を結果としているので、行動を生むためには、捉え方をシフトさせ、体験を原因として捉える必要があります。

図1:体験と行動の前後関係をシフトさせる

これまでの記事で書いた通り、ある行動の直前の「予期的UX」に、予期的/一時的/エピソード的/累積的なUXを収束させ、行動を生むのです。

図2:予期的UXに収束させて行動を生む

では、行動に必要な予期的UXをどのように検討すれば良いのでしょうか?

僕が利用しているのは、FBM(Fogg Behavior Model)というフレームワークです。

FBMでは、ある行動が生まれるための要素を下記の3つの要素に分け、これらが同じタイミングで必要な状態にあれば行動が起こるとしています。

Motivation(動機):喜び/苦悩/希望/恐れ/社会的受容/社会的拒絶のMotivators(動機付けの要因)によって上下する。
Ability(可能性):行動が可能な能力。スキル的なものだけではなく、行動に必要とされる時間やお金なども含まれる。
Triggers(きっかけ):簡単にする/知らせる/モチベートするの3種類。

3つの要素の関係を示したのが下図です。

図3:Fogg Behavior Modelのグラフ

このモデルを元に、アクションラインを越えて行動してもらうためにはどうすれば良いかを考えるわけです。
(考案者のB.J.Fogg氏はAbilityにフォーカスする手法を提唱しています。http://www.foggmethod.com/

そして、この3つの要素を予期的UXとして捉えて、デザインに利用できるのではないか、というのが今のところの僕の考えです。
( 『UXデザインの教科書』でも紹介されている安藤先生のSEPIA法との類似に気づき、そちらで考えたほうがいいかも・・と思っていたりします。)

3. 行動を生むための手法とツール

価値についてはUXデザインにお任せするとして、行動を生むための手法は発達していないので、自分で考える必要があります。
FBMをそのまま使っても良いのですが、考えがまとまりにくいので、キー・インタラクション・キャンバス(仮)というものを作成しました。
(Triggerに関しては、その他の要素に合わせて用いるので省いています。)

図4:キー・インタラクション・キャンバス(仮)

これを下記のように埋めて問題を切り分けます。
1. 事業指標(KGI)達成に必要な行動を特定して、デザインの定量的な目標(KPI)を設定する。
2. 行動を起こすためのKey UXである、MotivationとAbilityの仮説を設定する。
3. Key UXを邪魔する「致命的な課題となるUX」を想定する。
4. 行動の直前までの文脈を想定する。
5. 致命的な理由を解決し、必要なKey UXを生むために必要なサービス/プロダクトの要素を想定する。

必要なサービス/プロダクトのアイディアを出す際には、MotivationとAbilityに分けて付箋で出していくと切り分けできます。

図4:キー・インタラクション・キャンバス(仮)の記入例:Code for JapanのWebサイトリニューアル

プロダクト/サービスとユーザー行動のインタラクションの連鎖をデザインする
KPIとなる行動やそれを生むための予期的UXを個別にデザインするだけでは、サービスとしての価値提供をデザインすることはできません。
プロダクト/サービスの要素によってユーザーが行動し、それによって価値の体験が生まれ、その体験が次の予期的UXを生み・・と、プロダクト/サービスとユーザーのインタラクションが連鎖してサービスとしての価値がつくられるからです。

インタラクションの連鎖をデザインするためには、俯瞰的に全体を把握するツールが必要だったので、インタラクション・ジャーニーマップ(仮)というものを作成しました。

図5:インタラクション・ジャーニーマップ(仮)例:Code for JapanのWebサイトリニューアル

これを下記のように作成して連鎖を想定します。
1. 事業指標(KGI)達成に必要な行動を特定して、デザインの定量的な目標(KPI)を右端に書く。
2. スタートの行動を書く。
3. 途中の行動を埋める。
4. 行動を生むための予期的UXを書く。
5. 予期的UXが生まれない理由(課題)を書く。
6. 課題を解決するためのプロダクト/サービスの要素を書く。

(※両ツール共に例はお手伝いさせていただいているCode for JapanのWebサイトリニューアルのプロジェクトのものです。)

そして、これら2つのツールは以下のように組み合わせて使うことができます。

  1. ゴール設定:事業指標(KGI)と価値提供のゴールを設定する。
  2. インタラクション・ジャーニーマップ作成:ゴールを両立させる予期的UXと行動(KPI)の連鎖の流れを確認。
  3. キー・インタラクション特定:「ゴールに特に重要な体験と行動」(キー・インタラクション)を特定する。
  4. キー・インタラクション・キャンバス作成:行動(KPI)実現に必要なUXとその実現方法を詳細にデザインする。

これで、UXデザインを利用してKPIを達成させ、そこからKGIを達成するデザインをすることが可能になります。

(ツールについてはまだ荒削りなので、今後アップデートしていきます。)

まとめ

存続可能な価値提供事業を成立させるためには、プロダクト/サービスとユーザーのインタラクションを連鎖させなくてはなりません。
体験を提供するためにも、体験だけではなく行動を生み出すための視点を持ってデザインをする必要があります。

僕はデザインの可能性を信じる者として、デザインが価値提供と事業成果を両立させられると証明しなければならないと考えています。

本来、UXデザインは価値ある体験を生み出すための方法ですが、それを行動を生み出すことに利用できるのではないかという仮説の元に、このような記事を書かせていただきました。

この記事はそういった考え方の共有にすぎません。読者であるあなたと一緒に人や社会や世界をポジティブにデザインする方法を探したいと思っています。オンライン/オフライン問わず、質問やご意見などお待ちしています。

追記:危機感が強くなったのは、 Shigeru Kuroyanagi のような優秀なGrowth Hacker(Data Scientist)と一緒に仕事をしたこともある。”よく分析された”データほどの説得力を「デザイン」が持つ必要性を思い知りました。データに対抗するのではなく、データと協働するという意味で。ありがとうございます。

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