KPIツリー

デザインKPIツリー 1

Mikihiro Fujii
13 min readFeb 28, 2019

− 前編:デザインと事業の定量的共通言語 −

(この記事は以前から公開していた記事がmediumによってnoindexになっていたのでリンク削除や記事分割したものです。内容は以前のままです。)

1. はじめに

このドキュメントは、デザインやデザイナーの事業に対する役割を知ることで事業でのデザイン活用をサポートするための「デザインKPIツリー」というデザイン可視化手法の基本的な説明です。「後編:作り方と使い方」と合わせてお読みください。

2. 概要

まず、デザインKPIツリーの対象者を明らかにした上で基本的な考え方を説明します。

2–1. このドキュメントの対象者

このドキュメントの対象者は、主に

  1. インハウスのデザイナー
  2. デザイン改善で成果を出したいチームのディレクターや事業責任者
  3. クライアントの事業成果に貢献したい受託系のデザイナー

で、あまりKPIなどに慣れ親しんでいない方を想定しています。 内容的にはデジタル領域をメインに考えていますが、実際にはデジタルであるかどうかは計測がしやすいかどうかくらいの違いでしかありません。

では、各対象者別に、デザインKPIツリーの使い方のイメージを共有していきます。

2–1–1. インハウスのデザイナーの方へ

事業において成果とされるのは主に数字です。 ですが、事業会社で日々デザインをしているデザイナーには、自分の仕事と事業目標の間にかなり距離があるか、別物として捉えている人もいると思います。多くの場合、デザイナーに細かい数字の話をしても・・という事業側からの距離感と、数字苦手だしな・・というデザイン側からの距離感でお互い遠くなっているのが原因であるように思われます。

そして、その成果に対する距離感についてもっと危機感を持ってもらいたいというのが、このデザインKPIツリーについて書く理由の1つです。デザインやデザイナーが感覚的に成果から遠いということは、事業としてデザインの力の活用方法がイメージできておらず、デザイナーが評価されにくく、事業が提供する価値にも影響が少ないと考えられているということだからです。

また、自分から数字にアプローチしたり、スモールチームだから事業で成果を出すために日常的に向き合っているという人もいると思います。とは言え、それは事業側の解釈で設定されたKPIやツリーを使っていることがほとんどだと思います。デザイン視点でKPIツリーを使うことができれば、可能性はもっと広がるはずです。

2–1–2. デザイン改善で事業成果を出したいディレクターや事業責任者の方へ

デザイン寄りのディレクターの方は、前項の「 インハウスのデザイナー」を読んでいただいた方が良いかもしれません。

事業寄りのディレクターやスモールチームの事業責任者で、デザインの必要性は感じつつも活用方法がわからない人には、使い慣れた定量的な視点でデザインを捉えるツールになりますし、逆に普段の視点とデザインでは何が違うのかもわかると思います。

特に、デザイナーに制作依頼をすることがあり、本当はなぜその施策を実施するのかを共有して一緒に考えるチームにしたいと思っている人にとっては、試す価値のあるツールになると思います。

2–1–3. クライアントの事業成果に貢献したい受託系のデザイナーの方へ

最近のIT系受託デザイン業界では、クライアントのビジネス面まで食い込む力のある会社が多くなってきています。裏を返すと、事業側ではデザインを活用したいというニーズが高まっていることと、社内にはその力が無い場合が多いということが想像できます。

ですが、クライアントは事業の概要説明が済むとどんなデザインが欲しいのかを話し始め、数字目標までは話さないことも多いと思います。事業でのデザイン活用の方法がわからないのであれば当然のことです。 そこで事業とデザインをつなげたコミュニケーションができると、ビジネスチャンスも広がるはずですが、受託では自社内でサービスに関する数字に接する機会も少なく、アプローチが難しいと思われます。

また、「目標数字について聞いたけど無さそうだった。」というのもよくある話ですが、これは「社外秘なので」「言っても意味が無いから」「あえて定量目標を持っていない」「本人もイマイチ理解できていない」などの理由があるはずです。クライアントと一緒にデザインKPIツリーを作って共通言語にしつつ、クライアントがデザイン活用ができるようにガイドをしていくことで、より深いパートナーシップにつながるはずです。

2–2. デザインKPIツリーとは?

ここでは、「KPIツリー」と「デザインKPIツリー」の差について説明します。

2–2–1. 一般的なKPI/KPIツリー

デザインKPIツリーの説明をする前に、まずは一般的なKPI/KPIツリーについて説明します。

KPIツリーは、次の図のようにKGIを元にKPIに分解してツリー状にすることで関係性を可視化したものです。

KGIからKPIに分解

KGI
├ KPI1
└ KPI2 ┬ KPI2-1
└ KPI2-2

実際のKPIツリー例

新規登録UU:1,000 → 2,000

├ 登録フローUU:10,000
│ ├ LP UU:34,000
│ └ LP CTR:15%→30%

└ 登録完了率:20%

KGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標):成功したかどうかを最終判断するための指標
KPI(Key Performance Indicator=重要業績指標):事業や施策の効果検証をうするための指標

これらKGIとKPIは、実数(金額や人数など)か比率(クリック率など)の定量指標で、目標値を持ちます。

2–2–2. デザインKPIツリー

KPIやKGIの定義について説明しましたが、特に現場においては組織や個人の主観によって解釈が変わることがあります。 例えば、「KGIは事業全体の最終目標だけ VS 施策の目標もKGI」という違いだったり、「施策のKPIは既に設定されているので、他のものを持ち出されても困る」などです。また、事業の説明などでデザイン側と違うKPIが出てきた時に混乱するということもありえます。

そこで、このドキュメントでは衝突や混乱を防ぎ、デザインにフォーカスしてコミュニケーションをするために「デザインKPI」「デザインKPIツリー」という用語を使うことを提案しています。

では、デザインKPIツリーを使う理由、使い方、捉え方、作り方などを説明していきます。

3. デザインKPIツリーのワークフロー

本来は、使う理由から説明するべきなのですが、デザインKPIツリー自体が作ることによってワークショップ的に新しい視点を手に入れるものなので、まず実際にデザインKPIツリーを運用する際のワークフローについて説明します。

デザインKPIツリー運用のフロー

  1. デザインKPI設定(改善案件はここから開始)
  2. デザインKGI設定(立ち上げ案件はここから開始)
  3. 事業KGIに対するデザインKGIの役割確認
  4. デザインKPIツリー作成
  5. 検証方法の確認
  6. 実制作
  7. 検証・改善

※実制作と検証・改善については各現場のフローに合わせることを想定しているため、最小限の内容になっています。

このフローで扱う指標

  • デザイン指標:デザインKPIツリー上の指標すべて。KGIとKPIを含む。
  • デザインKPI:デザインした結果として直接アプローチしようとしている指標。
  • デザインKGI:デザインした結果としてアプローチしようとしている事業指標。
  • 事業KPI/KGI:事業で目標設定している指標。

一般的なKPIツリーではツリー上の指標はすべてKPIと呼ばれる事が多いですが、デザインKPIツリーでは、明確にデザインのターゲットのみをデザインKPIと呼びます。

※これらの指標は、事業規模や考え方やなどによって、すべて同じになることもあります。事業とデザインの指標が同じであっても、目的が違うと意味や重要度が違うので、事業自体がデザイン中心に設計されているのでない限り、デザイナー独自で管理するようにしましょう。

3–1. デザインKPI設定

改善案件の場合は、デザインKPIの設定から始め、次にデザインKGI設定に進みます。

デザインKPIは、デザインで引き起こしたいユーザーの行動を指標にしたものです。 デザインKGIが実数(金額やユーザ数や販売数など)になることはありますが、デザインKPIは、原則として比率(%)を使います。

これは、デザインでユーザーの数自体を直接増やすことはできないことや、分母が変わると分子も変わってしまうなど、実数はデザインでコントロールしにくいからです。(例:広告でLPに入ってくるユーザーが増えれば、次のページに遷移するユーザー数も増えてしまう。)

また、デザインKPIには、LP上のボタンのCTRのようなUI単体〜ページ単位、さらに初月継続率(初めて利用した月の翌月の継続利用率)のようなものまで、様々な規模のものがあります。

以下に具体的な例を挙げます。

例1) 初月継続率を上げようとしている場合:初月継続率は比率。初月継続率がそのままデザインKPI。例2) 画面Aから画面Bへの遷移ユーザー数を増やそうとしている場合:ユーザ数は実数。行動としては遷移を引き起こしたいので遷移率がデザインKPI。(画面Aのユーザー数 × 遷移率 = 画面B遷移ユーザー数)

ただし、デザインでアプローチしにくいものは、分解してアプローチしやすくします。

例3) 初月継続率を上げるために新機能を追加しようとしている場合:
1. 初月継続率は比率だが、変化の原因が新機能と紐付いているか判別できない。
2. 新機能を使ったユーザーと使っていないユーザーの継続率を比較すれば紐付けられる。
3. デザインKPIを下記2つにして可視化する。
A:「新機能ユーザー初月継続率」の目標と実績
B:「新機能ユーザー初月継続率」と「非新機能ユーザー初月継続率」の比較

※デザインKPIの設定は、比較的難易度が高い工程なので、今後詳細な解説にアップデートする予定です。

3–2. デザインKGI設定

立ち上げ案件の場合は、デザインKGIを確認するところから始め、次にデザインKPI設定に進みます。

デザインKGIは、デザインでアプローチしようとしている事業KPIです。デザイン案件の定量目標と考えて問題ありません。

例1) 新規登録ユーザー数:1,000 → 2,000例2) 初月継続ユーザー数:500 → 1,000

デザインKGIの指標や数値(実績→目標)が設定されていない場合、以下の3点をヒアリングしてデザイン側で設定して共有します。

  1. デザインKGI:案件の目的を確認 → デザインKGIとして設定
  2. デザインKGIの実績値:その場でわからなければ後ほどでも可
  3. デザインKGIの目標値:どれくらい増えて欲しいイメージなのか。(例:2倍になって欲しい?それとも120%くらい?)

3–3. 事業KGIに対するデザインKGIの役割確認

事業全体の目標に対するデザインKGIの役割を確認します。

事業KGIが登録ユーザー数であれば、デザインKGIの新規登録ユーザー数に既存登録ユーザー数を足せば算出できる。

登録ユーザー数 29,000 → 30,000

├ 既存登録ユーザー数 28,000
└ 新規登録ユーザー数 1,000 → 2,000

※現実には、複数の指標に対して施策が並行して走ることも多いので、ここまで単純にはならないかもしれません。

3–4. デザインKPIツリー作成

デザインKGIとデザインKPIをつなぐツリーをつくります。

基本的には、デザインKGIからデザインKPIにたどり着く「ユーザー」と「行動」の掛け算に分解していくだけです。 デザインKPIの目標値はツリーを作れば計算で算出できます。

※実際にはGoogle SheetsやEXCELのようなスプレッドシートで作成すれば自分で計算をする必要が少なくなるのでおすすめです。

※ツリーを作っていると、依頼とは違う部分のデザインの方が効果的であるように見えてくることがあります。その時はできればデザインKPIツリーを使ってデザイン対象の変更を提案しましょう。

例1) デザインKGIが新規登録ユーザー数(新規登録UU)、デザインKPIがLP CTRの時

新規登録UU:1,000→2,000

├ 登録フローUU:10,000
│ ├ LP UU:34,000
│ └ LP CTR:15%→30%

└ 登録完了率:20%
  1. デザインKGIである新規登録UUの目標が2,000
  2. 新規登録フローの登録完了率の平均実績が20%
  3. 登録フローUUは、2,000 / 0.2 = 10,000
  4. LP UUの平均実績が34,000
  5. デザインKPIであるLP CTRは、10,000/34,000 = 約30%

※目標や実績は事業側で設定・計測されている前提です。

例2) デザインKGIの既存登録ユーザー数を新機能追加で増やそうとする場合

既存登録UU:28,000→30,000
│ ├ 新機能継続UU:1,500
│ │ ├ 新機能UU:3,000
│ │ └ 新機能初月継続率:50%
│ │
│ └ 非新機能継続UU:500
│ ├ 非新機能UU:3,000
│ └ 非新機能初月継続率:17%

└ 既存継続UU:26,000

3–5. 検証方法の確認

指標が出たところで計測方法と検証スケジュールなど、検証方法を確認します。

この時、必要な計測ができることを担当者(実装するエンジニアなど)に確認しておいてください。

具体的には最低でも次のようなことを確かめる必要があります。

  1. 検証に使うKPIツリーのすべての指標を同じツールで取得できること。
  2. セッションでなく、ユニークユーザー単位で計測できること。(例えばGoogle Analayticsはユーザー単位でレポートが出せない指標があるので注意。)
  3. 複数ボタンがある中でデザイン改善した特定のボタンからの遷移だけを抽出したいなど、細かい指定についても対応可能であること。

エンジニアが解析ツールの仕様を知らない場合もあるので、 「この計測ができないとやる意味がなくなるので確実に可能かどうかを確認したい」 ということを明確に伝えることをおすすめします。

もし、どうしても計測できない事情がある時は、他の指標にする必要がありますが、KPIツリーが成立するように注意してください。

3–6. 実制作→検証・改善

  1. UXや各種の制約などを合流させて、デザインKPIの目標達成を前提としたアウトプット。
  2. スケジュールに従って検証した後、KPI設定に戻って検証結果に基づいた改善計画を立てる。

3–7. デザインKPIツリーワークフローの採り入れ方

デザインKPIツリーのワークフローは、既存のデザインプロセスと入れ替わるのではなく、デザインを数字側から補完しつつ並び立つものです。とは言え、いきなりチームに導入することが難しいことも多いのも確かです。無理はせず、まずはデザイナーから始め、自分の言葉で有益性を説明できるようになってから共有するのでも良いので、試してみてください。

4. 前編のまとめ

これでデザインKPIツリーがどんなものかなんとなくわかったかと思います。具体的な作成方法や使い方、演習問題などは、「後編:作り方と使い方」をどうぞ。

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