デザイン組織づくりでの思い込みによる2つの課題と解決への提案
この記事は「Service Design Night vol.2 〜 “ユーザーに愛されるサービスデザイン”と“組織作り&デザイナー育成” 〜」に登壇するにあたり、自分の考えをまとめるために書いたものです。
僕は今、デザイン組織を作ろうとしています。
そして、デザイン組織を作ろうとしていると、どうしても
- 「デザイナー」なら「デザイン」領域全般ができなくてはならない。
- 「デザイン」は「デザイナー」のもの。
という2つの思い込みにぶつかることになります。
この記事では、その2つの思い込みによる課題について説明しつつ、リフレーミングして解決に向かいたいと思います。
「デザイナー」なら「デザイン」ができなくてはならない?
1つ目の課題は、
「デザイナー」なら「デザイン」領域全般ができなくてはならない。
という思い込みです。
近年、 UXデザインやデザイン思考など、広義の「デザイン」への意識が高まるにつれて、その領域はどんどん広がってきています。その広がりの速度についていける人はそう多くはないでしょう。
そこまでいかなくても、最近は「UIデザイナー」の募集なんかがいっぱい出てて、 社内でもUIデザイナーとして育成・評価したりし始めるわけですが、
ネット上に書いてあるUIデザイナーのあるべき姿は、
・(ジェネラルな名称なのに)”アプリの”UIがデザインできる。
・ビジュアルとしてクオリティの高いUIをつくることができる。
・ユーザビリティの高いUIをつくることができる。
・各種デザインガイドラインに精通している。
・アニメーションなんかもデザインできちゃう。
・ユーザーストーリーも設計できる。
・なんならデザイン系のコーディングもできちゃう。
・なんならビジネスの理解もして、デザイン要件に翻訳できる。
といった感じです。
で、実際に
「今のプロジェクトにアサインされるまでは何してたんですか?」
って聞くと、
Aさん:「PC向けのWebデザイナーでした。」
Bさん:「UI・・・のパーツを描いてました。」
Cさん:「ガラケーサイトのUIデザインしてました。 」
みたいな方がいっぱいいるわけです。
UIデザイナーとしての未来なんて予測できないので、ガイドラインなんて読んでなくて当然です。
そして、その戸惑いを抱えたまま評価され、成長を求められるわけです。
自分がそうだったのでわかりますが、PC Webとアプリのデザインは技術や情報収集という意味だけでも全然違うものです。
アプリのデザインについて成長をしてくれということは、PC Webに対する成長が多かれ少なかれ滞ることを意味します。今まで覚えた技術だって忘れてしまいます。 そういったキャリアチェンジに近いことを求めているということを組織側もちゃんと意識する必要があります。
(インフラエンジニアを10年やってきた人のことを当然iOSアプリつくれるでしょ?って思わないのと同じマインドセットが必要です。)
もちろん時代と共に変化しなくてはいけないということはあると思います。 事業で必要とされる能力によって評価されるのは当然だからです。
そして、やっぱり成長はして欲しいものです。
だったら、まずはコミュケーションから始められないでしょうか。 例えばアプリのUIをデザインする必要があるとして、
「アプリのデザインしたことないだろうけど、パーツつくるだけってわけにいかないから、色々勉強してもらわないとなんだよね。まずはガイドラインの勉強会から始めたいんだけどどう?」みたいな。
なぜこれができないのでしょうか?
すぐに思いつくのは、
1.デザインはデザイナーの仕事だと思われている。
2. 組織とメンバーが共に学ぶ関係性ができていない。
3. 何を学べば良いのか組織側もわからない。
ということかなと思います。(他にあるかな・・?)
1は、デザイナーも自分の役割を明確にしましょう。今後のキャリアイメージを相談するところから入ってもいいかもしれません。
2は、デザインというより組織開発として重要な要素だと思います。組織ががんばりましょう。逆にがんばろうしない組織にいる人は待ってても恵みの雨は降りません。
3は、どちらかに丸投げしてもリスクになるだけです。一緒に模索しましょう。もし僕に相談してもらえるなら一緒に考えますし。
「デザイン」は「デザイナー」のもの?
2つ目の課題は、
「デザイン」は「デザイナー」だけのもの。
という思い込みです。
これは1つ目の思い込みと表裏一体のものです。
理由はすごく単純で、「デザイン」って入ってれば「デザイナー」の仕事だろうということです。冗談みたいですがそれが現実です。
10年くらい前までは、ネット業界でも「デザイン」とは表面的な見た目か、良くてもプロダクトの品質の話であるという考え方が主流だったと思います。
その時はなんとなく「デザイン」は「デザイナー」がやるということで良かったんだと思います。
その後。例えば「UXデザイン」が出てきて、なんでデザイナーがやるイメージがあるかというと、「デザイン」ってついているからだけだと思っています。
もちろんデザイン系の学校で教えているということもありますし、今でいうUXデザイン的なことをその頃からしているデザイナーさんもいますが。
また、「デザイン思考」も同じです。そして、UIデザインのあるべき姿みたいな、UIデザインにまつわることもなんとなくデザイナーの仕事になっています。
僕の知ってるビジネスマン達(経営者含む)は、こういった話をするとだいたいが「俺も(何らかの意味で)デザインしてる」と言います。
例えば「ディレクター」は、日本特有の肩書の名称で、アイデンティティに悩んでたりしますが、ある職種だから「デザイン」領域は立ち入れないなんて思わなくて大丈夫です。
センス無いって思ってても、バックグラウンド無くても大丈夫です。
デザインにかぎらず、3年やってきた人と今すぐ同レベルで話すのは難しくて当然です。1年くらい本気でやれば基礎では追いつけます。1年間自分はデザイナーじゃないから・・って思って素人でいつづけるより、体系的な知識を得て自信ができる方がいいと思いませんか?
あとはチームとしてのリソース配分として考えれば良いかなと思います。 事業として厳しい時は事業に専念してもらえるように1メンバーとしてデザイナーが巻き取るとか。
多くの場合、これを難しくするのは、職種ベースの評価制度です。
デザイナーの評価項目にUX的なことやUIの知識は入るかもしれませんが、ディレクターやエンジニアはどうでしょう?もしあったとしても、そのレベル感は標準化されているでしょうか?
専門職を正当に評価するために作った制度が、制約になってしまうという現実がそこにはあります。
デザイン組織とは、デザイナー組織ではなく、デザインする組織
ここまでで書いたことで、デザイン組織を作るにあたって2つの思い込みがいかに問題であるかがわかったかと思います。
「デザイン組織づくり」を、「デザイナーを組織化するにはどうすればよいか」と考え続ける限り、理想論にしかなりません。
ですが、この問題は、この2つを裏返せば答えが出ると僕は考えています。
つまり、「デザイン組織づくり」は
「組織としてデザインできるようにするにはどうすればよいか。」
という視点で考えなくてはならないものだということです。
デザイナーの組織化もスキルの強化という意味では必要だし、個々人の人生を考えて成長を実現するという視点もなくてはなりません。
結果的にデザイナー組織がデザイン領域をカバーできることもあると思います。
でも、「組織として事業成果を出せるデザインができるようになる」を目標として、デザイナーも含めたメンバー全体でデザイン組織をつくっていくと考えた方が、ゴールに合理的に向かえるアプローチになる思います。
そのためには組織として人ではなくデザインを評価する仕組みや、人のデザイン系スキルを職種の制約無く評価する仕組みが必要になります。
僕は、本人のアイデンティティに基づいて評価・育成することが1つの解になると考え、Goodpatch時代には自分の職種名を希望制にするということをしていました。(そういった中からグロースデザイナーという肩書も出てきました。彼は優秀なエンジニアでもあります。)
具体的な方法論についてはまだまだ模索中なので、今後成功も失敗も共有させていただければと思います。
デザイン組織づくりの先にあるもの
個人的には、デザインができる組織をつくりつつ、事業成果を出せるデザインの仕組み化を進め、クリエイティビティに使える時間を最大化させて、今ここにない価値を生み出せる業界になっていけばいいなと思っています。
そういった組織を作っていきたいので、同じように考えてくれる人にはぜひ一緒に働いて欲しいし、 会社単位で取り組んでる場合じゃないとも思ってます。業界内で社内外問わず協力したり相談しあったりしていけたら嬉しいです。